夏妻3|5年ぶりの続編が、1100円で戻ってきた意味
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2021年9月に2作目が出ました。そして3作目が2026年9月です。
5年。同じ9月です。偶然じゃないでしょう、これ。
正直、もう出ないと思っていました。同じように思っていた人、けっこういるんじゃないですか。
それが戻ってきた。しかも、前と同じ顔では戻ってきませんでした。
330円、440円、そして1100円。夏妻3のこの上がり方
1作目が330円。2作目が440円。ここまでは順当です。
それが今回、1100円。倍以上です。ページ数は89ページなので、前作より少し減っているくらい。つまり枚数で値段が上がったわけじゃないんですよ。
じゃあ何で上がったのか。作る側の感覚で言うと、こういう値付けをするときは「これで最後にするつもりの話を描いた」か「一枚一枚にかける時間が前と比べものにならなくなった」かのどちらかです。たぶん両方です。
しかもサブタイトルがない。1作目は旅館、2作目は自宅と、場所がちゃんと書いてありました。今回はただの「夏妻3」。どこで何が起きるかを、あえて言っていない。
この沈黙、けっこう不気味だと思いませんか。
夏妻3のあらすじ ─ 立ち読みで読めるのは、浴室の攻防まで
立ち読みで読めるのは、浴室の場面からです。
外は大雨。タクシーも捕まらない。だから帰れない、という状況を、男の側が言葉にして差し出してきます。帰れないんじゃなくて、帰らなくていい理由を用意されている。そういう言い方です。
そして、その口でもう一段踏み込む。あんたが帰る先は浮気してる旦那のところだろう、と。たかが浮気くらい気にするな、と笑いながら。
彼女は、やめてくださいと返します。私たちは夫婦なんです、と。この一言を言えている時点では、まだ彼女は踏みとどまっている側なんですよ。裸で壁際に追い詰められて、胸を手で隠しながら、それでも夫婦という言葉を持ち出す。
ここが痛いんです。だって、その旦那が浮気しているのは本人がいちばんよく分かっているわけでしょう。守るものとして持ち出したはずの言葉が、いちばん脆いところを突かれている。
そのあとの展開は立ち読みでも少し見えます。難しいことは考えないで、気持ちいいことだけ考えていればいい。そう誘導されていく流れです。抵抗の言葉が、だんだん短くなっていく。
そして、ベッドの場面。男がゴムを手に取ったところで、彼女のほうから何かを言い出す。あの表情です。目に涙をためて、指をわずかに動かして、自分から口を開く顔。
ここが立ち読みの一番おいしいところでした。何を頼んだのかは、ぜひ自分の目で見てください。浴室で夫婦だと言い張っていた人と、同じ人の顔だとは思えません。
逃げ場を潰してから始まる、という気持ち悪さ
この作品、いきなり襲われる話じゃないんですよ。
まず雨で足を止められる。次に、帰っても旦那は浮気している、と事実で殴られる。逃げる先も、逃げる理由も、全部先に潰されてから始まる。
男の言い方がずっと丁寧なのが、また効きます。敬語なんです。ずっと敬語で、笑いながら、彼女の逃げ道を一本ずつ閉じていく。乱暴に奪われるより、こっちのほうがよほど恐ろしい。
で、彼女のほうも完全に拒めていない。拒みきれないことを、自分でも分かっている顔をしている。あの、視線を落として何も言い返せなくなる間の取り方。あれを描けるから、このシリーズは5年待たれたんだと思います。
浴室で夫婦だと言った人が、ベッドで自分から何かを求める。その距離を、たった数十ページで渡らせてくる。これが89ページぶんあるなら、1100円はむしろ安いほうです。
夏妻3のサンプルを見て、一枚だけ選ぶならここ
選ぶならベッドの場面の、あの見開きに近い一枚です。
髪が汗で額に貼りついていて、目が潤んでいて、手だけが所在なく上がっている。表情は崩れきっているのに、まだ完全には落ちていない。まだ恥ずかしいと思っている顔なんですよ。その中途半端さが一番そそります。
体つきも、このシリーズらしい描き方です。細くない。やわらかくて、重みがあって、動いたぶんだけ揺れる。浴室で立っているコマの、腰からお腹にかけての丸みとか、正直ちょっと生々しすぎます。理想化された体じゃなくて、生活してる人の体です。
あと、浴室の壁に手をついて後ろから押されているページ。あれは彼女の横顔がいい。口が半分開いていて、目がどこも見ていない。まだ耐えているのか、もう耐えるのをやめたのか、判別がつかない。
この絵柄が好きなら、迷う時間がもったいないです。サンプルを見た瞬間に分かるタイプの作品なので。
5年空けて同じ人妻を描き続けるということ
自分でも作る側にいるので言いますが、5年前のキャラを5年後にもう一度描くのって、普通に無理です。絵柄は変わるし、そもそも当時の熱量が残っていない。
それを、値段を倍以上にしてでもやりきった。そこに全部が出ていると思います。読む側からすると、これほど分かりやすい「本気で作った」のサインはありません。
このシリーズの既刊
夏妻3から入っていいのか、という話
結論から言うと、3から入っても普通に楽しめるはずです。浴室の場面だけで、この人がどういう立場にいるかは分かるように作られていますから。
ただ、1と2が合わせて770円です。旅館で始まって、自宅まで持ち込まれて、その先の3作目。この順で追ったほうが効くのは間違いありません。そこは正直に言っておきます。
◎ こういう人は買っていい
- 1・2を読んで、続編を諦めていた人
- 拒む言葉がだんだん短くなっていく過程が好きな人
- 細い体より、重みのある体つきに目が行く人
- 涙をためながら自分から求める顔に弱い人
- 旦那が浮気している、という前提が効く人
△ これは合わないかも
- 妻が最後まで抵抗しきる話を期待している人
- シリーズ前作と同じ330円台を想定していた人
- 男側にまったく感情移入できないタイプの話が苦手な人
- サブタイトルがなく、舞台が事前に読めないのが不安な人
浴室で夫婦なんですよと言い張った人が、ベッドで何を口にするのか。
それを確かめるために5年待ったんだとしたら、1100円は安いです。
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